『地域福祉のあり方を考える』

平成16年12月7〜8日
電源地域振興センター 

1 「地域福祉の現状と今後の課題」

   講師:九州大学大学院人間環境学研究院教授 小川全夫 氏

     なぜ今、地域福祉計画が必要となっているのか。地方分権が進められている中、その計画が税金配分の根拠となる。

     市町村には地域福祉計画の策定が義務付けられているが、国はガイドラインを示しているだけで、どこの地域も手探りで策定を進めている(既存の計画との整合性、策定費用の捻出、NPO等他の関係団体との調整 など)。

     「福祉」をもっと広い視野でとらえて(ホームレス、DV、ニートなどを全て含めて)、策定していくことが重要になってくる。

     また、住民自治の力も欠かせないものとなっている。

≪所感≫

     地域福祉計画、地域福祉活動計画に限らず、「計画策定」について、大きな不安をもっている。関係団体の代表者を集めて数回集まっただけでできてしまうもの、数字だけが重要視されているもの、冊子を作成することが完結してしまうもの、完成後にめくることがないもの、住民に認知されていないもの・・・など。これから社会福祉協議会として計画策定をしていかなくてはいけない中で、その不安はさらに大きなものとなっている。

     計画策定に住民参加を・・・といっても、やはり計画はトップダウンというイメージがぬぐえないのも、今後策定にかかわる立場として、どういう方法がいいのか悩んでいる点である。

     講義をききながら、柏崎ですすめているコミュニティ計画の策定が思い浮かんだ。各地域でじっくり時間をかけて策定したものは、同じ柏崎市内とはいえ、それぞれの地域特性がでていると思うので、その計画の内容を市全体の計画に反映することができれば、これまでとは異なった方法での住民参加が実現し、住民にも認知される計画になるのではないかと感じた。

     社会福祉協議会が策定する活動計画も、行政が策定する計画、コミュニティ計画等と、切り離すことはできない。義務づけられて形式的に策定するのではなく、その必要性についてしっかりと意識をもった上で、かかわっていかなくてはいけないと痛感した。

2 「住民主体の福祉・まちづくり」

   講師:住民流福祉総合研究所主宰  木原孝久氏

     介護保険制度が導入されて3年。サービスの受け慣れや、自立支援に逆行した状況が生じてきている。

     また、介護保険を利用すると(プロが家庭に入ると)、地域のつながりが切れてしまうケースがある(世話をしていた近隣の住民が、「あそこはヘルパーがきているから・・・」と離れてしまう)。1度切れた地域のつながりを復活させるのは、とても難しい。

     地域は「助けたり助けられたり」で成り立っている。なんでも行政やサービス提供団体がやってしまうのではなく、「住民の支えあい」を応援する視点が大切(例えば、要援護者を助ける側にまわすサポート)。介護される一方の人をつくってはいけない。

     福祉は自分から始まる(自分の問題をオープンにすることから)。実はそれがなかなかできないために、ピントのずれた事業が展開されてきたのではないか。

     悩みの数だけ「セルフヘルプグループ」がある。困っていることを声に出し、自分の問題を自覚したり、解決方法を考えたり、助けを求める・・・行政の手には負えないレベルの高い福祉を実現するのは、これからはセルフヘルプグループ(住民)かもしれない。住民のやり方には知恵がある。

     「住民の支えあい」の中で欠落しているのは、「助けてもらう技術」。ボランティアを養成するだけでなく、助けてもらうことを伝えていかなくては、バランスがとれない。

     「公的サービスが不足しているからボランティアを・・・」というのでは、住民の理解は得られない。住民の支えあいをベースに展開していかなくてはいけなかった。

     住民は、みえないところで、効率よく支えあっている(弱い力を集めて)。よくみないと私たちには見えない。それを知るために地域のマップづくり(人間関係図)は大変有効。住民それぞれが「天性」を生かせる役割を知っている(世話やき、誘い上手、やらせ屋、代弁係など)。

     これからは、特定の限られた弱者へのサービスではなく、生活課題をそれぞれが出し合い、共同で解決していくことを「福祉」ととらえたい。

≪所感≫

     最近よく使われる「住民参加」ときくと、その地域で日常生活を送っている主役であるべき住民を、これまで抜きにして、事業を展開してきたのではないかという反省と不安を感じていた。それが、木原氏の講義をきいて、やはりまちがった展開をしてきたと感じた。

     私たちは、住民のもつ力をしっかりと認めてこなかったのだと思う。地域のことを一番知っているのは住民であり、日常場面で起こる課題に対して、私たちの目には見えなくても何らかの工夫をしながら解決してきている(または、解決しようとしている)。そこをベースに、サポートしていくことができれば、本当に地域に根ざした普段着の活動ができるのだと思う。

     社協の職員としては、私たちは地域福祉の主体にはなれない。社会福祉協議会が進める地域福祉活動に限らず、介護保険事業等についても、本当の意味での支援をしっかり意識する必要性を感じた。

3 「地域福祉に関する参加者討論会」

   コーディネーター:住民流福祉総合研究所主宰  木原孝久氏

テーマ【住民主体の地域福祉】 2グループ

Aさん:小さなデイサービスを立ち上げた。行政の助成は得られなかったので、自分たちで資金を稼いできた。5年間たって、行政から事業の運営委託を受けることになった。自分たちがやるべきことをしっかりやっていると、行政もサポートしてくれるのではないか(最初に補助されなかったからこそ、活動が続いているともいえる)。

Bさん:あるNPO団体が資金面で行き詰って、行政の補助を求めてきた。補助を出すと行政の仕事になってしまい、住民主体からはずれてしまうのではないか・・・。

Cさん:NPO法人で知的障害者のデイサービスをしている。支援費事業の指定を受けたことで、確実にお金ははいってくるが、NPOを立ち上げた時とミッションが変わってしまうような気がして不安。

Dさん:介護保険や支援費制度がスタートしたことで、利用者主体より商売感覚が働いて、過剰なサービス提供が生じているところがある。

Eさん:ボランティアで見守りを兼ねて除雪している人がいた。その活動をサポートしようということで、助成金を出し始めたが、今年度はその助成が打ち切られることになった。今年の冬は、除雪してもらえないかもしれない・・・。

Fさん:地元で地域通貨制度がはじまったが、使える場所が少なく、あまり価値がないということで、ボランティア活動自体もしなくなってしまった。

Gさん:台風や災害があると、行政や社協より、やはり地元のつながりが大切だと感じる。しかし、それをどのようにシステム化したり、サポートしていったらいいのかわからない。

Hさん:「住民主体」「住民参加」といいながら、主役を忘れて今まで事業を展開してきたという反省から、現在はワークショップをとりいれ、住民に気づいてもらう仕掛けをしている。

     2グループでは、あたりまえのこととしてうまくいっていたことが、お金をきっかけにうまくいかなくなった例など、「お金」がキーワードとしてあがった。

     支援の方法は「お金」だけではないと思いながら、実は助成が一番簡単であり目に見えやすいために、「お金」で支援してしまうことも多い。長期的に見て、本当に必要なサポートをしていく必要を痛感した。

     また「住民主体」をすすめていくには、「行政に頼りきりの住民の意識改革が大変」というグループ発表が数多くあったが、何か不快感をおぼえた。まずは、そう考えている自分たち自身が発想の転換を図り、自分も一住民としてかえていこうという思いがなければ、何もかわらない。私たちは、住民と対立する立場にいるのではないはずなのに、いろいろな場面で「住民がわるい」というようなニュアンスの発言が参加者からあったのは、残念であった。「誰かがわるいからかわらない」というようなスタンスでいたのでは、ものごとは進展しないばかりか、すべてにおいてマイナスに作用するのではないだろうか。

4 「コミュニティビジネスと地域福祉」

   講師:コミュニティビジネス総合研究所代表取締役所長  細内信孝氏

     コミュニティビジネスは、タテ割社会にヨコ串をさしたようなもの。福祉とのインクリュージョンもたくさん可能性がある。

     コミュニティビジネスのベースは「顔がみえる関係」。

     ボランティアから一歩進んで、利益追求を第一としない中間領域的な働きをする事業へと展開。雇用をつくる(それも職住近接がポイント)ことも、地域を元気にする素となる。

≪所感≫

     ビデオ等で、様々な成功例や事例を紹介してもらったが、身近でイメージできる素材がなかなか思い浮かばなかったために、自分の中に内容がはいってきにくかったように感じる。

     「コミュニティビジネスの起業」というと、つい柏崎には縁遠いことというイメージをもってしまうが、実際には元気な活動をしているところも、その可能性を秘めている活動や団体もたくさんあると思う。福祉にかたよった事業展開だけでなく、もっと広い視野をもてるよう、私自身しっかりと情報収集をしていかなくてはと感じた。

5 「介護・福祉の現場から」

   講師:NPO法人ケア・センターやわらぎ代表理事 石川治江 氏

     NPO法人ケア・センターやわらぎは、介護保険導入前から、インテークやアセスメントのフォーマットを開発し、利用者本位のサービス展開をしている。2001年にはISO9001を取得、福祉分野のNPO法人としては、全国で3本の指に入る規模となった。

     今、福祉分野で必要とされているのは、ケアワーカーではなく、むしろコーディネーターであると考え、養成に力をいれている。

     高齢者や障害者の「思い」をシステや仕組みに変えていかなくてはいけない。

     公的介護保険や支援費制度の導入で、さまざまなバランスが乱れてきてしまった。介護保険は3年が経過し、大きく見直しをされると思うが、本当に援助を必要としている人にとって、厳しいものにならないといい。

≪所感≫

     ヘルパーだけでも350人いるということで、NPO発足当初のメンバーと、新しいメンバーの間で温度差はないか?と質問したところ、全員が一致団結しなくては達成できないような花火(イベントや新しい事業など)を打ち上げる人がいるといいということであった。

     また、職員の研修システムについては、ISO取得がよい機会となり、自主的に様々な勉強会が開かれているとのこと。柏崎市社協も組織が大きくなり、職員の自主研修システムが必要になっていると思う。機会をみて提案をしていきたいと感じた。

≪研修会全体を通して≫

     介護保険制度、支援費制度導入による「弊害」について、何回もふれられていたことが、一番印象的であった。しかし、すでに動き出している制度であり、それを嘆いてばかりいても仕方ない。民間団体である社会福祉協議会として、どう事業をすすめていくか問われているのだと感じる。社協はサービス提供団体だけにとどまってはいけない。様々な事業者も参入してきた今、社会福祉協議会でしかできないサービスや事業、社協に今求められていることなど、真剣に考える必要性を痛感した。事業拡大だけが、評価基準ではない。社会福祉協議会として展開するべき先駆的事業の糸口となりうるアイデアを、今回はたくさん得ることができたと思う。

     特に、広い視野でとらえる福祉、タテ割制度の横断、地域に密着した活動のサポートという点から、ファミリーソーシャルワークの必要性と可能性が思い浮かんだ。柏崎では地区社協をもっておらず、地域の福祉活動はコミュニティセンターに頼らざるを得ない状況にあるが、その実務を担ってもらっているコミュニティセンターには、あらゆる分野のあらゆる事業が委託されており、職員の業務は大変煩雑になっている。コミュニティセンターの職員は、地域情報をたくさんもっており、木原氏がいうところの様々な役割を、担っていると考えるが(各自は自覚していなくても)、今のところ、業務が煩雑で本来の機能を発揮できていない部分も多い。幸い、コミュニティセンターに関して柏崎では、整備が困難なハード面が整っているので、ソフト面へのサポートを充実させること(例えば、地区のコミュニティセンターに保健、福祉等の専門職員を配置するなど)で、より地域性を生かした事業展開と、子ども、障害者、高齢者とわけたケアではなく、家族全体をとらえたケアシステムの構築など、可能性はたくさん考えられると感じた。

     全体を通じて、キーワードとなっていた「住民参加」については、講師も参加者もそれぞれのもつイメージが異なっているという印象を受けた。策定委員会のように、主催者側の決めた枠に「参加」してもらったのでは、なんとなく「アリバイづくり」というイメージがぬぐえない。住民がもともと中心にあるということを私の心において、場面場面で最善の方法を考えていきたいと思う。必要に迫られて動いている地域と、必要に迫られていない地域とでは、アプローチの方法も異なる。住民から声がでるような仕掛けも、意識していきたい。

     今、一番私の中で課題であり不安にも感じているのは、やはり地域福祉活動計画の策定についてである。今までのトップダウン方式でなく、各地域で策定されているコミュニティ計画を生かしたボトムアップ方式のものにしていきたいと強く感じている。他の地域のまねではなく、策定作業自体が、地域づくりにつながるような内容を盛り込み(たとえば、各地域が策定したコミュニティ計画を、プレゼン方式でPRしあえるような企画など)、本当の意味で柏崎独自の計画が策定できるといいと思っている。

     今回の地震災害で、市内の各地域をまわった時に感じたことだが、以前のようになんでも行政に頼るというような雰囲気は少なくなってきていると感じている。自分たちで地域を守っていくから、ここだけはサポートして欲しいというような、パートナーシップの芽がでていると思う。この流れを、うまく生かしていくことも大事であると感じた。

     今回、行政職員の参加が多く、何かをかえたいと思っても前例がないと難しい、異動がある・・・というような声がたくさんきかれた。それは、社会福祉協議会も同じであり、永遠の悩みかもしれない。しかし、時間は流れており、住民の生活も日々変化していくので、そのとき住民にとって何が大事かを考えてクリアしていくしか方法はないのだと思う。新しいことをするのは「大変」というのではなく、もっとプラスの視点で進めて行けるといと感じた。私も、今まで見落としてしまった柏崎の可能性を、今回の研修を機にたくさん見つけていきたいと心から思った。

     4人の講師の話は、相反する意見があったり、すぐには自分の中で結び付けられない点もたくさんあるが、どれもいろいろな場面で活用できるツールとして、自分の中で消化していきたい。いずれにしても、住民の活動をサポートする方法について、社会福祉協議会としてどう進めていくべきかを考える大変よい機会であった。

     何ごとも、ベースには「人と人のつながり」がある。地域のいろいろな人をいろいろな場面で結びつけていく活動には、今後もしっかり力をいれていきたい。